【賃貸オーナー】テナントから「家賃を別の会社から払いたい」と言われたら|承諾前チェック

この記事の結論
確認すべきは「誰が払うか」ではなく「誰が使うか」です。支払元だけの変更なら第三者弁済として覚書1枚で足りますが、使用者が増える/変わるなら書面承諾が必須。とくに保証(保証会社・連帯保証人)は契約書上の賃借人に紐付くため、賃借人を入れ替えると保証の組み直しリスクが生じます。
こんにちは。大阪府柏原市を拠点に、大阪府内外の不動産オーナーを支援している税理士の平川( @asse_t_ax )です。
事業用建物を貸しているオーナーから、こんな相談を受けることがあります。
テナントから「来月から家賃はグループの別会社の口座から振り込みます」って連絡が来たんです。振込元が変わるだけなら、特に何もしなくていいですよね?
大家さん
そこ、二つ返事で「OKです」と返す前に、ひとつだけ確認してほしいことがあります。「振込元が変わるだけ」なのか「使う会社も変わる/増える」のか。実はここで話が全然違ってくるんです。
ひらかわ
グループ再編・組織再編の話が絡むと、テナントから「家賃の支払元を別会社にしたい」「グループ会社と一緒に使いたい」といった申し出が来ます。文面がふんわりしていることも多く、承諾の仕方を間違えると、あとで「保証が切れていた」「知らないうちに賃借権が移っていた」というトラブルになりかねません。
今回は、賃貸オーナーが承諾する前に何を確認し、何を書面に残すべきかを整理していきます。
確認すべきは「誰が払うか」ではなく「誰が使うか」
結論から言うと、支払元の変更と賃借人の変更は、法律的にはまったく別の話です。申し出の文面だけでは判別できないケースが多いので、まず実際の使用者を確認するのが出発点になります。
テナントからの申し出は、ざっくり次のどちらかに分かれます。
- 支払元だけが変わる:使うのは今までどおりの会社。振込口座がグループの別会社になるだけ
- 使う会社が変わる/増える:グループ再編で借主自体が入れ替わる、または別会社と共同で使う
ここを分けずに承諾書を書いてしまうと、支払元が変わっただけなのに「賃借権の譲渡を承諾した」と読める書面ができあがってしまう、ということが起きます。まずは電話か書面で「実際に使う会社はどこですか」を確認しましょう。
支払元だけが変わるなら、契約変更は必要か
使用者が変わらず、振込元の会社だけが別法人になるケースは、契約変更や賃借人変更の手続きは基本的に不要です。民法474条の「第三者弁済」として受領できると考えられます。
ただし、口頭承諾だけで終わらせるのは避けたほうが無難です。数年続くと「実質的な賃借人は支払元の会社であり、貸主も黙示に承諾していた」と主張される余地が生まれます。覚書1枚を残しておくことで、その主張の芽をつぶせます。
覚書に書く内容はシンプルで、3行あれば足りることが多いです。
- 賃借人および賃料債務者は、従前の契約書記載の会社のままとする
- 支払元会社からの入金は、民法474条に基づく「第三者弁済」として受領するものである
- 本覚書は、賃借権の譲渡または転貸を承諾するものではない
この3点さえ書面化しておけば、「支払元=賃借人」という誤解を封じられます。合わせて読みたい: 大家さんが注意すべき家賃収入を計上するタイミングについて
使う会社が変わる・増えるなら、書面承諾が必須
使用する会社が変わる、または増えるなら、貸主の書面による承諾が必須です。これは民法だけでなく、契約書の文言レベルでも明記されているのが通常です。
多くの事業用賃貸借契約書では、賃借権の譲渡・転貸を「貸主の書面による承諾」を要件にしたうえで、括弧書きで次のような行為まで名指しで対象にしています。
- 共同使用(借主以外の第三者に使用させる行為)
- 合併・会社分割その他これに準ずる行為による借主の変更
- 借主の株主構成・支配関係の実質的な変更
そして、これらの違反は多くの契約書で無催告解除事由とされています。つまり、借主側も無断ではできない構造になっているわけです。
「共同使用」って、賃借人はそのままで、グループ会社も一緒に使いたいってやつですよね。使う人が増えるだけなら、承諾しなくてもいい気がするんですが……
大家さん
ここが一番見落とされやすいポイントです。使用者が「増えただけ」でも、契約書上は承諾対象になっているケースがほとんどです。放置すると、あとで解除事由を主張しにくくなります。
ひらかわ
最大の落とし穴は「保証」— 保証は契約書上の賃借人に紐付く
この記事で一番お伝えしたいのはここです。家賃債務保証会社の保証も、連帯保証人の保証も、対象は「その賃借人の債務」に紐付いています。賃借人を入れ替える、または連名にすると、保証は2本とも原則として組み直しになります。
ここで生じる3つのリスクが実務では大きな悩みどころです。
- 保証会社の再審査に落ちる:新しい賃借人(または連名の追加会社)が保証会社の与信基準を満たさない場合、保証が付けられません
- 初回保証委託料の再発生:組み直しにより、月額家賃の数十%〜1か月分程度の初回費用が再度かかる契約が多いです
- 組み直し中の空白期間:旧保証の解約と新保証の開始タイミングがずれると、保証が切れる期間が生まれます。この間に賃料滞納が発生すると、オーナーは無保証の状態で対峙することになります
だから、使用実態が許すなら「賃借人は据え置き+共同使用承諾書」で処理するほうが、オーナーにとって有利なことが多いと考えられます。契約書上の賃借人(=保証の対象)を動かさず、使用実態のほうを承諾書でカバーする組み立てです。
共同使用承諾書に入れる条項の例
- 新使用会社には賃借権は発生しない旨(占有権原はあくまで従前の賃借人からの許諾に基づくものとする)
- 本契約終了時には、新使用会社は賃借人と同時に退去し、独自の占有権原を主張しない旨
- 新使用会社の物件内での行為は、賃借人の責に帰するものとする旨
- 本承諾の有効期間は、本賃貸借契約の存続期間中に限る旨
- 本承諾は、賃借権の譲渡または転貸を承諾するものではない旨
この構造にしておけば、保証は組み直さずに済み、契約終了時の明渡しも従前の賃借人一本に対して請求できます。ただし、契約書ごとに文言や制限は異なるため、実際の運用では契約書の文言確認が必須です。
承諾する前のチェックリスト
承諾書にハンコを押す前に、次の6項目を確認してください。1つでも引っかかるなら、その場で回答せず、仲介業者や保証会社に事前照会を入れるのが安全です。
- 使用目的は契約書の用途欄の範囲内か。たとえば「工場」から「倉庫利用」に変わるなら、用途変更の合意も同時に必要です
- 火災保険(借家人賠償責任特約)が新しく使う会社の過失をカバーするか。被保険者は契約上の賃借人なので、そのままでは新使用会社の過失は担保されないことがあります
- 契約対象外の部分(上階・居住部分・共用部)へはみ出していないか。人数増で導線や倉庫使用が広がるケースは要注意です
- 使用強度が上がるなら、賃料や実費(下水道・浄化槽代など)の見直しを協議できる場面です。承諾とセットで提案するのが自然な流れです
- 賃借人を変えない場合でも、保証会社には事前に一報を入れる。事故時に「聞いていない」と言われないためです
- 請求書(適格請求書)の宛名は契約の相手方のままにする。支払元が誰かで宛名は変わりません(インボイスの詳細は後述)
インボイス(適格請求書)の宛名は「支払元」ではなく「契約の相手方」
適格請求書の宛名は、契約書上の賃借人(=役務提供の相手方)のままです。支払元の会社が別法人でも、宛名を支払元に書き換えることはできません。
ここを混同して「支払元の会社」宛にインボイスを発行してしまうと、支払元会社は自社の仕入税額控除に使えるかのように誤解しがちですが、そもそもその会社は貸主から役務提供を受けている当事者ではありません。適格請求書の記載事項としても、契約の相手方=賃借人を宛名にするのが原則と考えられます。
結果として、支払元会社は「立替払い」的なポジションとなり、自社の仕入税額控除には使えないのが一般的です。テナント側の経理処理は、賃借人側でグループ内精算を行うことになります。
まとめ|承諾する前に、書面で残すことを決めておく
整理すると、判断の流れはこうなります。
- 支払元だけが変わる:契約変更は不要。ただし「第三者弁済として受領」「賃借人は据え置き」を明記した覚書1枚は残す
- 使う会社が増える(共同使用):書面承諾が必要。ただし賃借人は据え置きにして、共同使用承諾書で処理するのがオーナー有利になりやすい
- 賃借人そのものが入れ替わる:契約書の書き換え+保証の組み直しが必要。3リスク(再審査落ち・初回費用・空白期間)を織り込んで進める
- インボイスの宛名:契約の相手方のまま。支払元の会社宛には発行しない
いずれのパターンでも、実際の判断は契約書の文言に強く縛られます。共同使用や借主の実質的変更を承諾対象にしているか、無催告解除事由をどこまで拾っているかは契約書ごとに違います。承諾書のひな型をそのまま使い回すのではなく、契約書の文言を確認のうえ、保証会社・仲介業者、必要に応じて弁護士に事前照会を入れることをおすすめします。
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よくある質問
Q1. 「振込元が変わるだけ」と言われたら、口頭承諾でも大丈夫ですか?
受領自体は民法474条の第三者弁済として可能と考えられますが、口頭承諾のみだと数年後に「実質的な賃借人は支払元会社だった」と主張される余地が残ります。「賃借人据え置き/第三者弁済として受領/賃借権譲渡・転貸の承諾ではない」の3点を明記した覚書を1枚残しておくことをおすすめします。
Q2. グループ会社と共同使用させたいと言われました。賃借人を連名にすればいいですか?
連名にすると保証(保証会社・連帯保証人)が原則として組み直しになり、再審査落ち・初回保証委託料の再発生・保証の空白期間という3リスクが生じます。使用実態が許すなら、賃借人は据え置きにして共同使用承諾書で処理するほうが、オーナーにとって有利なケースが多いと考えられます。
Q3. 適格請求書(インボイス)の宛名は、支払元の会社に書き換えられますか?
宛名は契約の相手方=賃借人のままとするのが原則と考えられます。支払元の会社はあくまで第三者弁済者の位置づけで、貸主から直接役務提供を受けていないため、自社の仕入税額控除には使えないのが一般的です。
Q4. 承諾書を出したあと、火災保険は何を確認すればいいですか?
借家人賠償責任特約の被保険者が「契約上の賃借人」に限定されているケースが多く、そのままでは新しく使う会社の過失は担保されないことがあります。保険会社に照会し、記名被保険者や特約範囲の追加が可能か確認するのが安全です。
Q5. テナントが「合併するので賃借人が変わります」と言ってきました。承諾しないと解除できますか?
多くの事業用賃貸借契約書では、合併・会社分割・借主の実質的変更を書面承諾制の対象にしており、違反時の無催告解除事由としていることが一般的です。ただし解除の有効性は契約書の文言と個別事情次第で、法的判断に及ぶため、契約書の文言を確認のうえ、必要に応じて弁護士に事前照会することをおすすめします。
