不動産オーナーの税金対策

【役員報酬いくらに?】給与所得控除65万円復活後の専従者給与・最適設定ライン

この記事の結論

結論から言うと、『不動産所得が事業的規模でない大家さんは、そもそも専従者給与を出せない』のが最大の落とし穴です。事業的規模を満たしたうえで、令和7年改正後の給与所得控除65万円・扶養判定123万円・2026年10月の社会保険見直しを織り込んで設計する必要があると考えられます。

こんにちは。大阪府柏原市を拠点に、大阪府内外の不動産オーナーを支援している税理士の平川( @asse_t_ax )です。

「配偶者に専従者給与をいくら払えば手取り最大化できますか?」
「役員報酬は結局いくらに設定すればいいですか?」

不動産オーナーの方から、本当によくいただくご質問です。

この論点は、令和7年分から給与所得控除の「最低保障額」が55万円→65万円に戻ったこと、扶養親族の判定所得が48万円→58万円に引き上げられたこと、そして2026年10月に社会保険のいわゆる「106万円の壁」が撤廃予定であることが重なって、大きく前提が変わっています。

今回は、専従者給与・役員報酬の「最適設定ライン」を、改正後の数字と落とし穴を踏まえて整理していきます。

妻に月8万円くらい払っておけば節税になるんですよね?

大家さん

それ、そもそも『事業的規模』を満たしていますか?満たしていないと、いくら払っても専従者給与としては経費にできませんよ。

ひらかわ

Q1. そもそも大家さんは専従者給与を出せるのか?

答え:不動産所得が「事業として行われている」(=事業的規模)場合のみ、青色事業専従者給与を必要経費にできます。これが最大の落とし穴です。

国税庁タックスアンサーNo.2075のとおり、青色事業専従者給与の適用を受けるには、その不動産貸付けが「事業として行われている」ことが前提です。

事業的規模の形式基準(No.1373)は次のとおりです。

  • 独立した貸室:おおむね「10室以上」
  • 独立家屋:おおむね「5棟以上」

ただし、この5棟10室基準は形式的な推定にすぎず、最終的には社会通念上の判定になると考えられます。区分1室・戸建1〜2棟の方は、そもそも土俵に上がれていないケースが多いので、まずここを確認してください。

青色事業専従者給与の主な要件(No.2075)

  • 生計を一にする配偶者その他の親族であること
  • その年の12月31日時点で「15歳以上」であること
  • その年を通じて「6か月超」もっぱらその事業に従事していること(新規開業等の特定の場合は従事可能期間の2分の1超)
  • 「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出(原則その年の3月15日まで、新規開始・専従者が生じた場合はその日から2か月以内)
  • 労務の対価として過大な部分は必要経費に算入されない

Q2. 令和7年改正で何が変わった?給与所得控除と扶養判定の新ライン

答え:給与所得控除の最低保障額は令和7年分から65万円に戻り、扶養親族・同一生計配偶者の合計所得要件は58万円(給与収入のみなら約123万円以下)に引き上げられました。

給与所得控除・最低保障額の推移

  • 令和元年分以前:65万円
  • 令和2年分〜令和6年分:55万円(給与収入1,625,000円まで)
  • 令和7年分以降:65万円(給与収入190万円まで)
  • 上限195万円(給与収入850万円超)は改正なし

ざっくり言うと「65万→55万→65万に戻った」経緯です。

扶養親族・同一生計配偶者の合計所得要件

  • 従前:合計所得48万円以下(給与収入103万円以下)
  • 令和7年分〜:合計所得「58万円以下」(給与収入のみなら約123万円以下が目安)

19歳以上23歳未満のお子さんについては、新設された「特定親族特別控除」があり、合計所得58万円超〜123万円以下の範囲で最高63万円の控除が受けられる仕組みも用意されています。

基礎控除(令和7年分)の区分

  • 合計所得132万円以下:95万円
  • 132万超336万円以下:88万円
  • 336万超489万円以下:68万円
  • 489万超655万円以下:63万円
  • 655万超2,350万円以下:58万円

なお、令和9年分以降は132万円超の区分が58万円に一本化される予定です。

注意:所得税と住民税で反映時期がズレる

ここは意外と見落とされがちです。

  • 所得税:令和7年分から給与所得控除の最低保障額65万円が適用(年末調整は令和7年12月、月次源泉徴収への反映は令和8年1月以後)
  • 個人住民税:令和8年度税制改正の大綱で、給与所得控除の最低保障額を令和9年度分・令和10年度分で「5万円引き上げ」とされています

「所得税も住民税も一律に65万円になった」と一括りに書かれた情報が出回っていますが、住民税は反映時期が異なる点に注意が必要です。

Q3. 専従者にすると扶養控除・配偶者控除は使えるのか?

答え:青色事業専従者として給与を受ける方は、同一生計配偶者や扶養親族にはなれません。ここは重要なトレードオフです。

妻に月2〜3万円だけ払って、配偶者控除も残す…みたいなことはできないんですか?

大家さん

専従者給与を1円でも支給した年は、その方について配偶者控除・扶養控除は使えないルールです。少額支給はかえって不利になるケースが多いですね。

ひらかわ

したがって、専従者給与を設定する場合は、「配偶者控除等を捨ててでも、それを上回るメリットが出る金額」に設計するのが基本方針になると考えられます。

また、労務の対価として「過大」な部分は必要経費に算入されません。実際にどの程度の業務(帳簿・入出金管理・入居者対応・現地確認など)に、どれだけの時間従事したかを、業務日報等で客観的に説明できる状態にしておきたいところです。

Q4. 2026年10月に「106万円の壁」が撤廃予定。設計思想はどう変わる?

答え:短時間労働者の社会保険加入要件のうち「月額賃金8.8万円以上(いわゆる106万円の壁)」は2026年10月に撤廃予定です。したがって、『106万円を意識して給与を抑える』という従来の設計は近く通用しなくなると考えられます。

短時間労働者の加入要件(現行)

  • 週の所定労働時間20時間以上
  • 月額賃金8.8万円以上 ← 2026年10月に撤廃予定
  • 雇用期間1年以上の継続見込み
  • 学生でないこと

月額賃金要件は全国の最低賃金1,016円以上を見極めたうえで撤廃されるとされています。また、企業規模要件についても、令和9年10月から令和17年10月にかけて段階的に撤廃予定です。

健康保険の被扶養者(130万円/150万円/180万円)

  • 原則:年間収入130万円未満(月額108,333円以下)
  • 60歳以上または障害者:180万円未満
  • 19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く):令和7年10月1日以降の認定日から150万円未満
  • 「年間収入」は過去実績ではなく、認定日以降の見込み額で判定
  • 別居の場合は、収入が仕送り額未満であることも要件

参考:料率(令和8年度・大阪支部)

  • 協会けんぽ大阪支部:健康保険料率10.13%(前年度10.24%から引下げ)
  • 介護保険料率(第2号被保険者):1.62%
  • 子ども・子育て支援金率:0.23%(全国一律)
  • 雇用保険(一般の事業・令和8年4月〜令和9年3月):労働者負担5/1,000、事業主負担8.5/1,000(失業等給付等5/1,000+雇用保険二事業3.5/1,000)、合計13.5/1,000(令和7年度は合計14.5/1,000)
  • 厚生年金保険料率:18.3%(労使折半で本人負担9.15%)。平成29年9月分で引上げが終了し、以後この率で固定されています

住民税の均等割の非課税限度額は「35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族の合計数)+10万円(同一生計配偶者または扶養親族がいる場合はさらに21万円を加算)」で計算されますが、この35万円は生活保護の級地区分により異なるため、お住まいの市町村によって金額が変わります。たとえば当事務所の地元である枚方市は1級地で、令和8年度課税分以降は、扶養親族がいない方は合計所得45万円以下で均等割が非課税、扶養親族等がいる方は「35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族の数)+10万円+21万円」以下が目安です(所得割の非課税限度額は加算額が32万円)。具体的な金額は必ずお住まいの市町村でご確認ください。

Q5. 世帯全体で手取り最大化するには、いくらに設定すべきか?

答え:一律の「正解額」はありません。オーナー側の課税所得(=所得税の限界税率)、専従者・扶養家族の他収入、社会保険の加入状況によって最適解が変わります。

ざっくりとした考え方の枠組みだけ整理しておきます。

  • オーナーの限界税率が高いほど、専従者給与を厚めに支給した方が世帯全体では有利になりやすい
  • ただし、配偶者控除・扶養控除を失うデメリット、社会保険料負担、労務の対価として過大でないかの説明可能性、をセットで検討する必要がある
  • 令和7年分以降は、扶養判定が「給与収入約123万円以下」に緩んだため、従来の「103万円」設計は再点検が必要
  • 2026年10月以降は「106万円」の壁が撤廃予定のため、社会保険料込みで手取りが最大化するラインで再設計する必要がある

最適額は、物件規模・家族構成・ご家族自身の収入・社会保険の加入状況で変わるため、「誰にでも当てはまる金額」はありません。ただし、設定時に必ず確認すべき境界のラインは決まっています。次の5つを押さえたうえで、世帯全体で試算するのが実務的な進め方です。

  • 給与収入 約123万円(合計所得58万円)……扶養親族・同一生計配偶者の判定ライン
  • 給与収入 130万円(月額108,333円)……健康保険の被扶養者から外れるライン。60歳以上・障害者の方は180万円、19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く)は令和7年10月1日以降の認定日から150万円
  • 月額賃金 8.8万円(いわゆる106万円)……短時間労働者の社会保険加入要件。ただし2026年10月に撤廃予定
  • 週の所定労働時間 20時間……賃金要件の撤廃後は、こちらが実質的な加入の入口になります
  • 住民税の非課税限度額……枚方市(1級地)なら扶養親族がいない方は合計所得45万円以下が目安

Q6. 法人化している大家さんの役員報酬はどう考える?

答え:法人の役員報酬は、原則として「定期同額給与」または「事前確定届出給与」の要件を満たさないと損金不算入となります。期中の思いつきでの増減はできません。

  • 定期同額給与:支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、各支給時期の支給額が同額であるもの。金額を見直せる「通常改定」は、会計期間開始の日から3か月を経過する日までが原則です(ほかに職制上の地位変更等による臨時改定事由、経営状況の著しい悪化による業績悪化改定事由があります)
  • 事前確定届出給与:届出期限は「株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日」と「会計期間開始の日から4か月を経過する日」のいずれか早い日。新設法人は設立後2か月以内です(根拠:法人税法34条、法人税法施行令69条ほか)
  • 役員報酬は個人側の給与所得控除65万円・基礎控除(合計所得に応じ58万〜95万円)を活用しつつ、法人側の税率・社会保険料負担とのバランスで設計する
  • 不動産管理会社の事業形態(管理委託方式/サブリース方式/不動産保有方式)によって、法人に落とせる収益の規模が大きく変わる

まとめ:改正後の設計は「事業的規模→改正数値→社保→シミュレーション」の順で

  • 個人:まず「事業的規模」を満たしているかを確認。満たさないと専従者給与そのものが使えない
  • 令和7年分〜:給与所得控除の最低保障額65万円、扶養判定は給与収入約123万円以下が目安
  • 住民税の改正反映は令和9年度分以降で、所得税とはズレがある
  • 2026年10月の「106万円の壁」撤廃で、社会保険を意識した給与抑制の設計は前提が変わる
  • 専従者給与を出す年は、配偶者控除・扶養控除は使えない(トレードオフ)
  • 法人役員報酬は定期同額給与・事前確定届出給与の要件を厳守

数字が絡む論点は、家族構成・物件規模・課税所得によって最適解が動きます。個別のシミュレーションは、平川先生の確認のうえで判断するのが安全と考えられます。

よくある質問

Q. 区分マンション1室しか持っていませんが、妻に専従者給与を出せますか?

不動産貸付けが「事業として行われている」場合に限り青色事業専従者給与を必要経費にできます(No.2075)。区分1室のみでは事業的規模を満たさないケースが多く、原則として専従者給与は出せないと考えられます。

Q. 令和7年分から扶養の判定所得はどう変わりましたか?

扶養親族・同一生計配偶者の合計所得金額要件は48万円→58万円に引き上げられました。給与収入のみの場合は約123万円以下が目安となります。

Q. 「106万円の壁」を意識して妻の給与を抑えた方がよいですか?

短時間労働者の加入要件のうち月額賃金8.8万円以上(いわゆる106万円の壁)は2026年10月に撤廃予定です。したがって、106万円を基準に抑える設計は近く通用しなくなる可能性が高く、再設計が必要と考えられます。

Q. 少額(月2〜3万円)だけ専従者給与を出して、配偶者控除も残せますか?

青色事業専従者として給与を受ける方は、同一生計配偶者・扶養親族にはなれません。少額支給ではかえって不利になるケースが多く、専従者給与を選ぶかどうかは「配偶者控除等を上回るメリット」が出る金額での設計が基本と考えられます。

Q. 法人の役員報酬は年の途中で自由に増減できますか?

役員報酬は原則として定期同額給与または事前確定届出給与の要件を満たさないと損金不算入になります。定期同額給与の通常改定は会計期間開始の日から3か月を経過する日までが原則で、事前確定届出給与の届出期限は「株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日」と「会計期間開始の日から4か月を経過する日」のいずれか早い日です。期中の思いつきでの増減はできないため、決算月から逆算した段取りが必要になります。

 

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